7月17日は「World Emoji Day」でした。📅(カレンダー)の絵文字が7月17日の日付を表示していることにちなんだ記念日です(worldemojiday.com)。この日に合わせてGoogleは、新しい絵文字セット「Noto 3D」の設計の裏側を解説する記事「Designing emoji for the way we communicate today」を公開しました。Noto 3D自体は2026年5月12日の記事で発表済みで、今回はその設計判断と公開方針を掘り下げた続報にあたります。
本記事では、まず新しい3D絵文字の実物をお見せし、それがどう実現されているかを確認したうえで、発表の中身を原文とともに整理します。
まず実物 — Noto 3Dの絵文字
発表記事に掲載された紹介映像から、新しい絵文字を6つ切り出しました。左上から順に、🥞(パンケーキ)、🎾(テニス)、🦥(ナマケモノ)、🍳(目玉焼き)、🐙(タコ)、👍(サムズアップ)です。

▲ Noto 3Dの絵文字。出典: Designing emoji for the way we communicate today — Google 掲載の紹介映像より切り出し
バターの角の丸み、ラケットのガットの張り、ナマケモノの毛並みまで、質感と陰影を持つ立体として描かれています。一方で、後述するとおり写実に振り切ってはおらず、粘土細工やぬいぐるみに近い柔らかい造形です。現行のNoto Color Emojiのフラットな2Dイラストからは、描き方が根本的に変わっています。
その実現方法 — 2Dの描画から「真の3Dモデル」へ
この立体感がどう実現されているかも、同じ紹介映像が示しています。👍を例に、従来のフラットな2Dイラスト(左)、3Dモデルのワイヤーフレーム(中央)、それをレンダリングしたNoto 3Dの絵文字(右)が並べられています。

▲ 左: 従来のフラットなデザイン、中央: 3Dモデルのワイヤーフレーム、右: Noto 3D。出典: 同上(Google) 掲載の紹介映像より切り出し
つまり新しい絵文字は、立体風に描き直した絵ではなく、実際に3Dモデルを作ってレンダリングしたものです。記事も、工程の出発点は従来どおり2Dの描画だとしたうえで、こう述べています。
While our design process still begins with 2D drawings, it no longer ends there. In an industry first, Noto Emoji 3D is entirely available as true 3D models.
(デザインの工程は今も2Dの描画から始まるが、もはやそこでは終わらない。業界で初めて、Noto Emoji 3Dは全体が真の3Dモデルとして利用できる)
平面の絵を立体に起こす過程では、「スマイリーの後頭部はどうなっているのか。凹面の仮面か、弾む中身の詰まったボールか、平らな紙か」という、2D時代には存在しなかった問いに答える必要があったとも書かれています。そして、このモデルデータ自体を公開するとしています。
Because language is meant to be shared, our entire Noto portfolio is completely open source. We’re handing over raw .OBJ files to the community so they can use them to build immersive VR worlds, indie apps or weird memes.
(言語は共有されるためにあるものだから、Notoのポートフォリオ全体は完全にオープンソースだ。生の.OBJファイルをコミュニティに引き渡すので、没入型のVR世界でも、インディーアプリでも、奇妙なミームでも、好きに作ってほしい)
.OBJは3Dモデルの形状(頂点・面など)を記述するテキストベースのファイル形式で、3D制作ツール間のデータ交換に広く使われています(Wavefront OBJ File Format — Library of Congress)。これまでのNoto絵文字の公開はフォントとSVG/PNG画像——つまり「文字を表示する」ための形——でしたが、今回公開するとされているのはモデルデータそのものです。メッセージ表示の外側、3D空間やアプリ内の演出などに直接持ち込める点がこれまでと異なります。
なお、配布先の具体的なURLは、2026年7月18日時点では発表記事の本文に示されていません。従来の公開先であるGitHubのgooglefonts/noto-emojiリポジトリも同日に確認しましたが、リポジトリ直下の構成とREADMEには3Dモデルへの言及を確認できませんでした。
発表の骨子
ここまでに見た内容も含め、7月17日の記事の要点は次の5点です。
- 絵文字ライブラリの全3,977字を3Dで再設計した
- 制作は従来どおり2Dの描画から始まるが、最終的な成果物は「真の3Dモデル」である(Googleは「業界初」と主張)
- Notoポートフォリオはオープンソースであり、3Dモデルの.OBJファイルをコミュニティに公開すると表明した
- ダークモードでの視認性の問題に対し、AIを使ったコントラスト検査ツールを構築した
- 展開は2026年後半、Pixelから(5月の初報より)
以下、残りの論点を原文とともに見ていきます。
再設計の動機 — 使われ方が「誇張」に寄った
Googleは再設計の背景として、絵文字の使われ方そのものの変化——長年使用頻度の首位だった😂(うれし泣き)の陥落——を、キーボードアプリの統計を根拠に挙げています。
For years, “face with tears of joy” (😂) was the undisputed emoji king, according to Gboard Federated Analytics. But following a multi-year decline, it slipped down the charts by 2025. Why? Because 😭 is a masterclass in modern vocabulary: It’s hilarious, it’s devastating and it captures absolute overwhelm. When we do laugh, our inclination for hyperbole demands it be unhinged, pushing “rolling on the floor laughing” (🤣) to the top of the chart.
(Gboardのフェデレーテッド分析によれば、「うれし泣き」(😂)は長年、絵文字の絶対王者だった。しかし数年にわたる減少の末、2025年までにランキングを下げた。なぜか。😭が現代語彙の傑作だからだ。滑稽でもあり、打ちのめされてもいて、完全な圧倒を表現する。笑うときも、私たちの誇張への傾きはタガの外れた笑いを求め、「床を転げ回って笑う」(🤣)をランキングの首位に押し上げた)
続けて、失恋の表現も💔(割れたハート)から🥀(しおれた花)へ人気が移りつつある、というデータにも触れています。根拠として挙げられている「Gboard Federated Analytics」は、Googleのキーボードアプリ Gboard の利用統計を、個々の入力データを収集せずに端末側で集計する仕組みです(Federated Analytics — Google Research)。
設計方針 — 写実ではなく表現
冒頭の実物で見たとおり、立体になっても造形は柔らかいままです。これは明文化された方針で、写実(フォトリアリズム)には向かわない、とされています。
Our emoji have always favored expression over hyper-realism and in this new 3D world it means our designs can have dimension without being photorealistic. They need a pulse and a soul — not the cold precision of industrial CAD models.
(私たちの絵文字は常に、超写実よりも表現を優先してきた。この新しい3Dの世界では、フォトリアリスティックにならずに立体感を持てるということだ。必要なのは鼓動と魂であって、工業用CADモデルの冷たい精密さではない)
記事では例としてカンガルーが挙げられています。実物のカンガルーを忠実に再現する必要はなく、イラストレーションの力で「カンガルーらしい遊び心」を捉えればよい、という立場です。冒頭の🦥の、実物のナマケモノとはかけ離れた愛嬌のある造形は、この方針の実例といえます。
また、絵文字の変更が意思疎通に与える影響を大規模なユーザー調査で検証したとして、次の知見を挙げています。
The research unmasked universal truths: Users overwhelmingly prefer full-body animals over floating heads; adding props hurts comprehension; and tiny tweaks (like swapping the direction of a wink) can turn mild confusion into accidental outrage.
(調査で明らかになった普遍的な事実がある。ユーザーは頭部だけが浮かんだ動物より全身の動物を圧倒的に好む。小道具を足すと理解度が下がる。そして(ウインクの向きを入れ替えるような)ごく小さな変更が、軽い戸惑いを思わぬ怒りに変えることがある)
小道具を足すほど伝わりにくくなる、という2点目の知見は、絵文字が数十ピクセル四方で表示される記号であることを考えれば筋が通っています。3点目は、絵文字の見た目の些細な差異が意味の解釈を変えてしまう——絵文字が単なる絵ではなく語彙として読まれている——ことを示す例といえます。
アクセシビリティ — AIによるコントラスト検査
視認性の改善では、AIの使いどころが具体的です。発表記事には、👍🏿を例に、肌の色・陰影・輪郭光という配色の役割分担を解析した図が掲載されています。

▲ 配色の役割(肌の色・陰影・輪郭光)の解析図。出典: 同上(Google)
Emoji with the darkest skin tones can be difficult to see in dark mode — a problem for anyone who sends or receives them. That’s why we built an AI-powered contrast tool that analyzes each emoji at the pixel level, flags when the contrast ratio is too low and suggests high-contrast solutions that are implemented by designers 💪💪🏻💪🏼💪🏽💪🏾💪🏿.
(最も濃い肌の色の絵文字は、ダークモードでは見えづらいことがある。送る側にとっても受け取る側にとっても問題だ。そこで私たちは、各絵文字をピクセル単位で解析し、コントラスト比が低すぎる場合に警告を出し、高コントラストの解決案を提示するAIツールを構築した。実装はデザイナーが行う💪💪🏻💪🏼💪🏽💪🏾💪🏿)
コントラスト比は、Webアクセシビリティ指針のWCAGでも定義されている、前景と背景の相対輝度の比率です(WCAG 2.1 — contrast ratio)。判定と代案の提示までをツールが行い、採否と実装はデザイナーが判断する、という役割分担で運用されている点は、デザイン工程へのAI導入の一つの実例として読めます。
「3,977字」をUnicodeの公式集計と突き合わせる
Googleは対象を「全3,977字(all 3,977 characters)」としています。一方、Unicodeコンソーシアムの公式集計ページ「Emoji Counts, v17.0」を2026年7月18日に確認したところ、Emoji 17.0時点の合計は3,953、うち基礎となる絵文字が1,388、残りは肌の色などのバリエーションという内訳でした。
つまりGoogleの数字はUnicodeの公式集計より24多いことになります。絵文字の「数」は、肌の色・性別のバリエーションや旗をどの単位で数えるかによって変わるもので、Unicodeの集計表自体が基礎絵文字とバリエーションを分けて数えています。Googleの3,977という数字がどの範囲を数えたものかは記事中に説明がなく、差分24の内訳は2026年7月18日時点では確認できませんでした。
変遷の中での位置づけと、手元の端末に届く仕組み
絵文字情報サイトEmojipediaの解説記事は、今回の刷新をGoogle絵文字の「5番目の大きな時代」と位置づけています。同記事の整理によれば、2010年代前半の白黒デザインに始まり、2010年代半ばに定着した丸い「blob」キャラクター、2017年のAndroid 8.0で導入されたグラデーション陰影、2020年のAndroid 11.0で導入された現行のフラットなNoto Color Emojiを経て、今回のNoto 3Dに至ります。Google自身も5月の初報で「2010年代の、愛すべき無垢なblob絵文字から Noto 3D へ」と、この変遷に言及しています。
こうした全面刷新が可能なのは、絵文字が「文字コード」と「字形」の分業で表示されているためです。文書やメッセージが持っているのはUnicodeの文字コードだけで、絵としての見た目は端末側の絵文字フォント——AndroidとChromeOSではNoto Color Emoji——が供給します。Unicodeコンソーシアムは文字を定めるだけで字形を管理せず、デザインは各プラットフォームベンダーに委ねられています(Emoji and Pictographs FAQ — Unicode)。したがって端末側のフォントが置き換われば、過去に送られた😂も含めて、文字データは1字も変わらないまま見た目が一斉に変わります。
展開時期については、5月の初報に「Noto 3D will be available across Google, starting with Pixel phones, later this year.(Noto 3DはPixelスマートフォンを皮切りに、2026年後半にGoogle全体で利用可能になる)」とあります。7月17日の記事では時期に関する新しい情報は示されていません。
まとめ
- Noto 3Dは、Googleが絵文字ライブラリ全3,977字を3Dで再設計した新しい絵文字セット。立体だが写実には振らない、粘土細工のような柔らかい造形で統一されている
- 実現方法は「立体風に描き直す」ことではなく、2Dの描画を出発点に実際の3Dモデルを制作してレンダリングするもの。Googleはこれを「業界初の、全体が真の3Dモデルとして利用できる絵文字」と位置づけている
- 3Dモデルの.OBJファイルをオープンソースで公開すると表明した。ただし配布先の具体的なURLは、2026年7月18日時点では発表記事にもGitHubのnoto-emojiリポジトリにも確認できなかった
- 再設計の動機は使われ方の変化にある。Gboardの統計を根拠に、😂の首位陥落と🤣の台頭、💔から🥀への移行など、表現が誇張の方向へ寄っていることを挙げている
- ユーザー調査から「全身の動物が好まれる」「小道具は理解を妨げる」「ウインクの向きのような些細な変更が誤解を生む」という知見を示し、AIによるコントラスト検査でダークモードの視認性を検証した
- Googleの言う3,977字は、Unicodeの公式集計(Emoji 17.0で3,953)より24多い。数え方の範囲は記事中に説明がなく、差分の内訳は確認できなかった
- 絵文字の字形は端末側のフォントが供給するため、フォントが置き換われば文字データは変わらないまま見た目が変わる。展開は2026年後半、Pixelスマートフォンから(5月の初報より)
参考
- Designing emoji for the way we communicate today — Google(2026年7月17日公開。本記事の主たる出典。本文中の3D絵文字の図版はこの記事掲載の紹介映像・画像からの引用)
- Express yourself with our new 3D emoji. — Google(2026年5月12日公開の初報。展開時期の出典)
- Emoji Counts, v17.0 — Unicode(2026年7月18日確認)
- Emoji and Pictographs FAQ — Unicode(字形は各プラットフォームベンダーが用意し、Unicodeは管理しないことの出典)
- googlefonts/noto-emoji — GitHub(従来のNoto絵文字の公開先。Open Font License 1.1、Android・ChromeOSでの利用の出典)
- World Emoji Day(7月17日の由来)
- Google’s 3D Emoji Overhaul: What, When & How Does It Compare — Emojipedia(デザイン変遷の整理)
- Federated Analytics: Collaborative Data Science without Data Collection — Google Research
- Wavefront OBJ File Format — Library of Congress
- WCAG 2.1 — Web Content Accessibility Guidelines(contrast ratioの定義)— W3C
